PROFILE ── 人物
イラクで首に懸けられた賞金、開かなかった落下傘、ゴラン高原の決断。35年の指揮官人生で身についたものと、それを次の世代に渡そうとしている理由。経歴の一覧はトップページに。
首に、一億円が懸かった。
それでも指揮官は、毎朝 部下と共に
イラクで活動し、部下の前に立つ。
バグダッド・アルガザリア地区のテロ組織は、「日本隊指揮官の首」に約96万ドル──約1億円の懸賞金を懸けていた。個人にではない。その職に就いた者すべてにかかり続けた賞金である。2005年1月、その職に就いたのが岩村公史、当時42歳。標的とされた指揮官の仕事は、隠れることではなかった。
部下の命と任務を預かる者として、毎朝、変わらぬ顔で隊員の前に立ち、変わらぬ言葉を送り続けた。危険を予想し、それを受けとめる心構え。覚悟とは、闇夜の荒野で道を切り開く力である。
危険は、消えない。
ならば今日も、基本を尽くせ。
諸官の一挙一動が、
日本の信頼そのものである。
支援隊長 岩村 ─ 隊員への朝の言葉(趣意)
高度330メートル。
主傘が開かない。予備傘も、開かない。
第1空挺団長時代の降下訓練。一人の隊員の落下傘が、二つとも開かなかった。地面まで、数十秒。その隊員が最後に選んだのは、パニックではなく「基本に戻る」ことだった。基本通りの着地姿勢──上昇風と30センチの積雪、そして受け身。隊員は、無傷で生還した。
皆は「運があった」と言った。だが、精鋭無比の空挺団を率いた男の結論は違う。
多国籍の司令部で、
日本人が信頼を勝ち取るということ。
ゴラン高原(イスラエル・シリア)国際軍司令部、先任兵站将校。文化も言語も軍の流儀も異なる各国将校のあいだで、兵站──すなわち組織の生命線を預かった。
約束は必ず果たし、行うことは必ずやり遂げる。言必信、行必果。信頼とは語るものではなく、積み上げるものだ。この任務で磨かれた「決断」が、のちの全ての指揮の土台になった。
他者の意識の変化を促し、心と行動を一つに纏め、
目的を達成する ── 技術・科学・天分。
35年の指揮官人生から体系化した、岩村のリーダーシップ論。その骨格は四つの要素で成る。
01
心
INSPIRATIONAL
人の心を動かす。個人の尊厳と名誉に火を灯し、「やらされる」を「やり遂げたい」に変える。
02
指揮
COMMANDING
直感で構想し、決断する。表面・潮流・構造の三層で本質を見る「魚の眼」と、OODAループ。
03
管理
MANAGING
構想を組織で実現する。Manage=「どうにかしてやり遂げる」。勝敗を分けるのは兵站である。
04
倫理
ETHICAL
自らの徳性を高め、率先垂範する。知識では決して身につかない、統率の核心。
35年かけて身につけたものは、
自分のものではない。
退官のとき、大手企業への再就職という道もあった。それを選ばなかったのは、自衛隊で教わったこと──人の命を預かる者がどう決め、どう伝え、どう責任を取るのか──を、自分の代で終わらせたくなかったからです。
これは軍隊だけの話ではありません。社員とその家族の生活を預かる経営者、現場の判断を任される管理職。責任の重さの形が違うだけで、問われることは同じです。部下を一人も欠かさず、家族のもとへ帰す。その考え方を、次の世代と、いま組織を預かっている人たちに渡していく。それがいまの仕事です。
イラクの指揮所では、毎朝ひとつ話をして、それを書き起こして全員に配った。 その記録が106回分、手元に残っている。いま、これをどう届けるかを準備している。
イラクで毎朝配り続けた106回の言葉の実録と、35年の指揮官人生。教科書ではなく、実話で綴る有事のリーダーシップ。
執筆準備中イラクで毎朝隊員に配った電報が、記録として手元に残っている。それを当時と同じリズム、同じ時間帯で一通ずつ届ける。日々の活力の保ち方と、統率が実際どう行われていたかを、読む人がそのまま追体験できる形にする。
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